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Looking for the Nostalgia

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ラムネ 1

この町は取り立てて特徴というものがない。
新しいお店やデパートがあるような町ではないし、
古き良き情緒ある街並という感じでもない。
唯一特徴があるとすれば、桜並木の商店街の先に見える、
町を分断し、隣の駅まで続く高い金網と有刺鉄線。
米軍の保給地。
それもいつもと変わらない風景。

きっと同級生の皆は、彼女や彼氏とデートしたり、友達と街へ繰り出したり、
何処かへ遊びに行ったりしているのだろう。
部活の練習に行っている奴もいるだろうし、
賢い奴等は塾へ行ったり勉強しているのかも知れない。
それをこの後に及んで何で僕は、こんな冴えない地元の商店街のお祭りを、
母親と二人で歩かなきゃならないんだ。
そう思うとすごく惨めで、同時に焦燥感と疎外感を覚えた。

僕は地元に特別な想い入れがない。
だから地元のおっさんとおばちゃんだけがやたらと張り切っているような、
毎年商店街の桜並木が満開になる頃に行われるお祭りも、
やるせない気持ちになるだけでまったく興味がなかった。
だけど母親がどうしても一緒に行きたがったのと、
他に何の予定もやる事もなかったので仕方なく了承したのだ。

想い入れがないから基地に関する政治的な背景とかよく知らないし、興味もない。
基地のスペースで町は完全に分断されているけど、
取り立てて町の向こう側へ行く用事もないからその点煩わしく思うことはない。
ただ、この桜並木の商店街の通りは、元々厚木基地までの戦車の通り道だったという事と、
その先にある国道16号が、いざという時滑走路として使えるようになっているというのは、
聞いたことがあるような気がする。

催し物の太鼓の演奏と、お花見をしている人達の笑い声が聞こえていた。
出店の料理のソースが焦げるような臭いも漂っていた。
手書きでラムネと書いてある看板が目にとまって急に飲みたくなり、1本買った。

母親はポケットから使い捨てカメラを取り出して、
そこの桜の木の下に立つから写真を撮って欲しいと言ってきた。
何だか恥ずかしくて、ますます惨めな気分だと思いながらカメラを受け取り、
ファインダーからポーズを決め込む母親を覗く。
「桜もちゃんと入ってる?」
「あー入ってるよ」
そう言ってシャッターを押した。
母親にカメラを返すと、「あんたも撮ってあげるよ」と言われたが、何となく照れくさくて、
「もういいよ、やめてくれよ」と言って、母親に背を向けそそくさと歩き出した。

明後日から高校最後の学年が始まる。
来年の今頃は卒業をしていて、何かが終りを訃げて何かが始まるだとか、
そういうのは実感もないし、まったく想像すらもつかなかった。

今の自分には、鬱陶しいとしか感じられない春風の吹く桜のトンネルの下、
元戦車の通り道でラムネを一口飲み、溜息の様に一息吐く。
瓶の中のビー玉がカランと音をたてた。
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by shimizumigiwa | 2009-11-04 07:12 | ラムネ
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