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Looking for the Nostalgia

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ラムネ3

ラムネ前回

朝のホームルームが始まるまで、教室の自分の机に顎肘をついて、
近くでクラスメイト達が先日起きた横浜駅異臭騒ぎの話をしているのを
何となしに聞いていた。
先月に都内の地下鉄で毒物による大きな事件が起きたばかりだから、
ニュースでも関連性があるのではないかと大きく取り上げられていた。

「ゼッテーまたあの団体の仕業だよな。
このタイミングでやるなんてバレバレでバカだよな」
「いやでもそれが難関大学卒とかの賢い奴等の独自な考え方なんじゃねえの?」
「凡人の俺達とは発想が違うって事か?」
などと言って笑い合っている。
何をつまらない想像力を働かせているのだ。
こういう場合、想像力というのは「もしその現場に自分がいたとしたら、
友達や家族がいたとしたらどうだっただろう?」と思う事に、
置き換えて痛みを知る為に働かせるものなんじゃないのか?
どうせ自分は時事問題に関心があるんだという事を主張して
大人振りたいだけなんだろう。だから浅はかで上っ面な事しか語れないのだ。
大体「賢い」ってお前ら正気かよ。

そんな雑談の輪の中には進学クラスの奴も混じっていた。
こんな想像力も乏しく、物事の上辺しか見れないような奴が
成績優秀で進学クラスにいるのかと、心底うんざりしていたその矢先、
まさに周りの匂いが急に変わるのがわかった。
隣の席の稲田が登校して来たのだ。
いつもの事だけど、よくもまぁ平然としていられるもんだよと関心する。
要はあからさまに煙草の匂いをまとっているのだ。

稲田の机に腰を掛けていた進学クラスの奴は、気まずそうに机から離れて、
チラッと稲田を横目で確認してからそそくさと自分の教室に帰って行った。
一緒に話していたクラスメイトもよそよそしくその場から散って行った。
稲田はそんな彼らの素振りも別段気にするでもなく、自分の席に座った。

稲田は頭の先から爪先まで、いかにも悪そうな香りをプンプン漂わせている奴だった。
ボサボサの髪の毛は金に近い色まで染められていて、
チラッと見える耳には幾つものピアス。
ブレザーや学校指定のバッグにはHELMETやNIRVANAや
THE MAD CAPSULE MARKET'Sといったバンドのロゴや写真が
プリントされた沢山の缶バッジ。
緩く結ばれたネクタイ。
第二ボタンまで開けられたシャツの裾は当然のようにズボンの外に出されており、
ズボンは腰骨のうんと下で履かれ、ウォレットチェーンが付けられていた。
もちろん上履きの踵部分はぺったんこである。

だけど、いわゆる皆に見える所で悪い事をしてちょっと目立ちたい、
でも実際退学になったらどうしようとか、辞める勇気もはなから無く、
なんやかんや学校にしがみついているような半端なヤンキー達とは違った。
たぶん「本当にどうでもいい」のだ。
だから処分も一年生の時に一度だけ。
教師も叩いても何も響かないような奴と解れば相手にしない。
悪さを見つかり、あからさまにうろたえ、
ヘコむような奴こそ弄り甲斐があり、虐めたがる。
教師の習性というのはそういうものだ。
第一叩いても響かない奴をイチイチ相手にしていたら、
教師の方も身が保たないのだろう。
もはや稲田を相手にする教師はいなかった。
それに、稲田から滲み出る退廃さは個人にとどまるものであったので、
放っておけば必要以上に騒いだり暴れたりするような奴ではなかった。

僕は稲田の事を、何だか綺麗なヤツだなと思っていた。
綺麗と言っても身だしなみであったり、
美人な女の人を見て思うそれとはちょっと違う意味で
(身だしなみは先の通りヒドイものだ。)、何と言うか、
混じり気の無い真っ黒な墨が綺麗に見えるのと同じような印象だった。
混合物の含まれた中途半端な不良達とは違う。
稲田は紛れもなく純度100%の不良少年だ。
だから綺麗に見えるのかもしれない。
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by shimizumigiwa | 2010-07-13 04:54 | ラムネ
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