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Looking for the Nostalgia

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カテゴリ:ラムネ( 14 )

ラムネ 14

ラムネ前回

プリントの裏に赤ペンが入れられてから数日後、
僕の人生と精神を狂わせる出来事が起こった。
いくら忘れようとしても、こびりついて拭い去れない忌まわしい記憶。

その日、僕は教室の掃除当番だった。
他の当番のやんちゃな男子達は紙屑をボールに、
ほうきをバットに見立てて野球ごっこをしてふざけていた。
その姿を見ていた女子達は「ちゃんとやりなさいよ」と文句を言い、
男子達が「うるせーブス」と言い返す、お決まりのやり取りをしていた。
僕が机を運んでいると、足下に紙屑のボールが転がって来た。
「ヘイ」
ピッチャー役の奴が、拾ってこっちに投げてくれという意味合いで、
両手を胸元に構えてそう言った。
僕はお前らサボっていないで掃除をしろよと内心思い、
紙屑をそのままゴミ箱に投げてやろうかどうしようか迷っていたら
「ヘェーイ!」と更に大きい声で威圧するように急かされ、
結局紙屑のボールを拾い上げ、無言で投げ返そうと腕を振り上げたその瞬間、
ガラガラッと教室のドアが開く音が聞こえた。
反射的に振り向くと、ちょうど担任が入って来た所だった。
そのまま僕のところへ一直線に向かって来て、目の前でピタッと止まり、
一言だけ「放課後教室に残りなさい」と言ってまた教室を出て行った。
行き場のなくなった紙屑のボールを握り締めながら
野球ごっこをしていた奴等をチラッと見ると、
既に真面目に掃除をしているフリをしていて、女子達は無関心を装っていた。

教室の内も外もすっかり誰もいなくなった放課後、
そのガランとした教室で一人自分の席に座って担任を待っていた。
しばらくして担任が教室に入って来ると、
「西日が少しキツいな」と独り言を呟きながら教室の前半分をカーテンで閉め、
窓際の一番前にある担任用の机に腰掛けた。
それを合図に僕は席を離れ、机を挟んで担任の前に立った。
担任は椅子を横向きにして足を組み、
「なぜ掃除をせずに遊んでいたのか理由を言いなさい」と、
机に肘を付いて自分の爪を見る姿勢で言った。
どう言葉にして良いのかわからずに黙り込んでいたら、
担任が立ち上がって僕の目の前に来たかと思うと、ビンタが飛んで来た。
痛みと驚きと恐怖で泣いた。
「言わないからよ。理由を言いなさい」と担任は教科書を読むようなトーンで言った。
怖さで言葉が出て来ずに泣いていたら、またビンタが飛んで来た。
そうしてまた担任は同じセリフを同じトーンで言った。
そのやり取りを繰り返した何度目かのビンタの時、
僕は衝撃でよろけて、脇の担任用の机にぶつかった。
その揺れで机の上に置かれてあった業務用の少し大きめのスティック糊が、
コロコロ転がって床に落ちた。
担任はおもむろにスティック糊を拾うと、思いっ切り振り上げ、
今度はそれで僕の顔面を殴って来た。
僕が泣き声を更に増すと「痛いの好き?」と聞いて来た。
顔を上げられずに黙って泣きながら下を向いていると、
「オイ、聞・い・て・ん・だ・よっ」と言葉に合わせて弾ませるように、
スティック糊を頭頂部に振り下ろして来た。
僕は必死に首を横に振ると、「だったら早く理由を言えって言ってんだろ」と
初めて教科書のトーンから離れた言い方で、何かしらのスイッチが入ったのか、
少しニヤけたような表情を浮かべながら、握り締めた業務用スティック糊を
何度も左右斜めに振り回すようにバキバキと僕の頭と顔を殴りまくった。
たまらず両腕で顔をかばうと、振り回したスティック糊が僕の肘に当たり、
衝撃で蓋が弾き飛んだ。
その瞬間殴るのをやめたかと思うと、急に僕の両肩を掴み、
グルッと後ろを向かされ「窓に両手を付けろ」と言われた。
言われるがまま前屈みのようにカーテン越しの窓に両手を付かされると、
いきなり背後からズボンとパンツをずり下げられ、
そのまま勢いよくスティック糊を肛門にねじ込まれた。
余りにも理解不能な行動と恐怖で、僕は声も出なかった。
背後から覆いかぶさるような状態で担任は「理由を言え!」と僕の耳元で怒鳴り、
スティック糊を握っている手の力を更に込めた。
切迫した僕はたまらず泣きながらカーテンを握り締め、叫ぶ様に理由を答えた。

その時何て答えたのか、またそれに対して担任が何を言ったのかもよく覚えていない。
ただその後に、担任は握り締めていたスティック糊を床に放って、
「ほら、ゴミだよ」とまた教科書のトーンに戻って顎で促すように言った。
僕はパンツとズボンを上げて、
つい先程まで自分の身体に突き付けられていたそれを拾ってゴミ箱に捨てると、
「今から一人でもう一度教室の掃除をしてから帰りなさい」と担任は言い、
そのまま教室を出て行った。
僕は言われた通りにした。

恐らく、その時間帯は他の先生は職員室にいるか、
上級生の先生は授業をしているかでその教室の付近にはいない事も、
取り立てて用事がなければ受け持ちでないクラスの教室になんか
入って来ない事は勿論の事、
小学校二年生では、この一連の出来事を親や他の大人達に
説明できるボキャブラリーも、まして心のキャパシティーもない事も、
何より僕が元々器用に立ち回れたり積極的に話をする事が
得意でないタイプである事だって、全て計算付くの上での行為だった。

大人の女の人のやり方。

以来ずっと怨んでいるし、スティック糊を見るたびに
頭がビリビリして肛門が引きつるような感覚に襲われる。
無論使う事だって出来ない。
担任の名前もフルネームで覚えている。

ミニスカートのスーツの似合う美人な女の先生だった。
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by shimizumigiwa | 2011-04-03 15:00 | ラムネ

ラムネ 13

ラムネ前回

いつものように前の席から順番にわら半紙が配られる。
まずは解答を丁寧な文字で書いてから。
ここに抜かりがあっては元も子もない。
絵を描く時間も考慮に入れて、素早く問題を解けるように予習もバッチリしてきた。
そして問題を全部終え、いよいよ計画を実行する。
まずはそっとプリントを裏返す。
採点の時に初めて目にするようにしなければならないから、
何か不審な動きがあってバレてしまってはならないのだ。
問題は何を描くかだ。
これには相当頭を悩まされたが、今日を迎えるにあって、
試行錯誤のうえ結論を導き出していた。
担任の似顔絵も思い付いていたけれど、さすがに狙い過ぎだし、
完成度によっては余計に気を悪くさせる可能性がある。
僕は絵がそれほどヘタという訳ではないと思うけれど、
似顔絵で満足させられるほどの自信はさすがになかった。
ラクガキでそこそこ描き慣れているのは、キン肉マンに出てくるウォーズマンだった。
しかしこれに関しては、ふざけていると捉えられかねないし、
担任がウォーズマンを知らない可能性が高い。
明るく元気で子供らしいイメージ、尚且つ女の人が喜びそうなもの。
花…、そうだヒマワリだ。
ヒマワリを嫌いな人なんてまずいないだろう。
形もそんなに難しくない。
夏休みを過ごした後だから、タイミング的にもピッタリだ。

計画は無事に遂行された。

返却日、僕は期待と不安が入り交じる気持ちで待っていた。
小テストは机の列ごとに返却され、一番前の席から順番に回って来る。
前の席の奴から受け取る時に、プリントの表がチラッと見えてしまった。
表はいつも通りだった。
少しガッカリしたけれど、でもここまでは予測の範囲内だ。
一呼吸をおいて、一気にひっくり返してみる。

僕は硬直した。
教室内のざわつきがフェードアウトしたかに思えた。

花丸はなかった。
いや、結局何もないという結果も、予測の範囲内と言えばそうだった。
それ以上に予測を遥かに上回るモノが目に飛び込んで来たのだ。

ヒマワリの上には、勢いのある赤い線が二本交わっていた。
その脇には、長方形のような形に何かを赤く塗り潰した跡があった。

二本の赤い線をひいた勢いと感情にまかせて、何か汚い言葉を書き殴ったのだ。
でも後から、これがもし親の手に渡り、
その言葉を見られたらさすがにマズいかもしれないと思い直し、
上から塗り潰した跡だという事は容易に想像できた。

赤ペンが入っていたのはその時くらいだった。

今にして思えば、あざとさが余計にカンに障ったのだろうと推測できるし、
自分でもちょっとそう思う。
でもその時はそれなりにショックだったし、そこから得た教訓は、
この手の美談が成立するには、素直な性格で、容姿もそこまで悪くなくて、
教師に気に入られている事が大前提なのだなという事。
結局嫌われていたら何をしてもダメなのだという事。
下手に行動を起こせば、むしろ悪化するという事。
またこれは少し後になってから分かった事だけど、つまり教師は、
例え小学生とは言え、異性は異性として捉えているという事だった。
テレビで美談を話していたあの芸能人だって、男前の人気者だったじゃないか。

だけど、これで終わるのならまだ良かった。
ただ嫌われているだけで済むのなら。
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by shimizumigiwa | 2011-04-03 14:52 | ラムネ

ラムネ 12

ラムネ前回

小学校二年生の時だった。
その頃僕は今住んでいる神奈川ではなく、
千葉の北小金という所に住んでいたのだけれど、
通っていた学校のクラスの担任に嫌われていた。
ピンク色のミニスカートのスーツが似合う美人な女の先生だった。

なぜ嫌われていたのか、原因や明確な理由は、今になっても、
わかるようなわからないようなといった感じだけれど、
結局は何となくいけ好かないとか、生理的に受け付けないという事に尽きるのだろう。
イジメに理由が無いのと同じ事だ。
これまでも人を嫌う理由として、「生理的に受け付けない」という
都合の良いような、でもやっぱり本質的な気もする言葉を
幾度となく聞いてきたし、そう思われてもきた。

もちろん僕以外に、クラスにはガキ大将的な男の子、
常に落ち着きがなく、よくケンカをしたり女子を泣かしたりしている、
いわゆるどのクラスにも一人は必ずいる問題児だって、ちゃんといた。
だけどその問題児は、担任に嫌われるどころかむしろ気に入られていた。
授業や学級会で何か発言を求められれば、ハキハキとした口調で答えるし、
時には冗談を交えた受け答えをして、
クラスの皆を笑わせるムードメーカーでもあった。
その為、問題を起こす事があっても、
基本的には明るく素直で元気な男の子というのが、担任を含めた周囲の評価であった。
何よりそいつは整った顔をしていたので、クシャッと笑った顔がまた爽やかで、
それだけで素直な子に映り、好印象を抱かせるからであろう。
そういうタイプは
「まったく元気が良過ぎるんだから〜」
といった憎めないキャラとして許されるのが常だ。
そして多くの場合、当の本人もその事を自覚していて、
例え小学生であっても、それを利用し、先生や周囲をうまく出し抜く。

それに比べて僕は、授業で指されたり発言を求められても、
声も小さく、モゴモゴとうまく答えられなかったり、
黙ってしまう事もよくあった。
加えて普段から、あまりクラスメイトとも触れ合ったりせずに、
一人でいる事が多く、ひいては元々がふて腐れたような顔つきだから、
ふてぶてしくて陰気臭い、気味の悪いガキという印象だったのだろう。

担任はよく授業で、自身が手書きで作成した問題を印刷したわら半紙を配り、
小テストを行なった。
それが一学期の後半頃から、提出しても、
僕のだけは採点どころか赤ペンのチェックすらしてくれずに、
そのまま返ってくるようになった。
始めは僕の字が汚なくて読み辛いという意思表示なのだろうか、
などと思ったりもした。
それで文字にも神経を注いでみたけれど、
どんなに丁寧な文字を書く事を心掛けて提出しても、状況が変わる事はなかった。

小学生低学年という小さく狭い、ごく限られた世界の中では、
担任が僕に抱いているその事実を認めるのが怖かったというのもあるけれど、
とにかくどう受け止めて、どう対処すれば良いのかわからなかった。

腑に落ちない気持ちを残したまま迎えた夏休みのある日、
夕食時にテレビを観ていた。
トーク番組で売れっ子の芸能人が話している。
「小学生の時だったんですけど、僕は勉強が全然ダメだったんです。
テストも全然解らなくて…。それでテストの裏に絵を描いて提出したら、
その絵に花丸が付いて返って来たんですよ」

この瞬間、僕は全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
衝撃で持っていたカレーのスプーンをホントに落としそうになった。

これだ。

僕は思った。
あれからずーっと胸につっかえている、小テストに纏わるどんよりとした
灰色の雲を晴らす手立てはこれしかないと。
ともすれば、クラスの問題児と同じように、
勉強がダメだった芸能人と同じように、
欠点はあれど、一人の生徒として認めてくれるようになるかもしれない。
この日から夏休み中その事ばかりを考えて過ごすようになった。

そうして新学期最初の小テストの日を迎えた。
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by shimizumigiwa | 2011-04-03 14:27 | ラムネ

ラムネ 11

ラムネ前回

さっき負けた奴から順番にゲームが進められていく。
それぞれ徐々にカードを減らしていき、一番最初にあがった奴が
「ヨッシャー!」と大声を上げた。
その次に僕もあがれた、というかさっそく一番最初にあがる事を回避した。
どういう訳か、こういう勝ちたくない時に限って強いカードが回ってくるものだ。
そして負けた奴が「あー何だよ〜」と、
手元に残ってしまったカードを放りながら嘆いた。
でもどこかちょっと嬉しそうな顔つきだ。
こういう暴露大会が好きな奴っているよな〜。
それも暴露話を聞きたいというより、
むしろ自分がちょっと暴露したいみたいな感覚なのだろう。
そう考えるとコイツはわざと負けた可能性もあるな。

最初にあがった奴が「お前って彼女いるじゃん?」と、
企みを大げさに含ませたような顔で負けた奴に言った。
「それが何だよ?」
負けた奴が答える。
僕も含めてこの班の奴等は、
クラスでもまったく冴えないタイプのグループなのだけど、
そうかコイツ彼女いたのかと、そういうタイプの中でも
彼女がいる奴がいるのだなと、僕は少し驚いた。
だけどそんな事より気がかりな事というか、嫌な予感を抱いてた。

「その彼女とはどこまでイッたのか答えなさい」
最初にあがった奴が負けた奴を真直ぐ指差して言い放った。
その瞬間、周りの奴も「イェーイ」「良い質問だねー」などと手を叩いて盛り上がる。
的中してしまった。
深夜に男が集まって暴露大会をすれば、この手の話になるのは
当然と言えば当然なのだろうけど、僕はまさにこの手の話を懸念していたのだ。
しかも酒が入っているせいで歯止めが効かず、悪ノリが悪ノリを呼び、
内容が行き過ぎてしまいかねない。
それだけはどうにかして避けたい。

負けた奴は「えぇ〜、そりゃキツいっすよ〜」と言いながら
ニヤニヤと下品な笑みをして缶ビールをグビッと飲む。
もったいぶっているが、言いたくてたまらないといった様子だ。
「早く言えよ〜」周りの奴が煽る。
「いや、だから〜、もうヤったよ」

心臓がバクバクした。

「マジかよ良いな〜」
「なぁなぁ、どんな感じだった?」
周りの奴等が更に盛り上がって、文字通り前のめりになって聞き立てる。
「おいもう答えただろ、勘弁してくれよ〜」
負けた奴がそう言った瞬間、僕は閃いて
「よし、じゃあ次コイツが負けたらその続きを聞いてやろうよ」と咄嗟に言った。
一瞬その場がシーンとなってから
「なるほどね、楽しみは残しておいた方が良いもんな。
そうと決まればさっさと次の勝負をやろうぜ」と、僕の提案に皆納得したようだった。
「あぶねー助かった〜」と言いつつも、負けた奴は少し不満げな顔をしていた。

何とか切り抜けられた。
これで次のゲームは僕がわざと負けて、話の流れと空気を変えよう、
そう考えたのだ。
場合によっては二回連続で負けても良いかもしれない。

再び全員にカードが配られてゲームが始められる。
僕はとにかく負ける事に専念した。
他の奴等が徐々にあがっていく。
そしてゲームが進められていく中で勘づいた。
残ったのは僕と今さっき負けた奴だ。
コイツもわざと負けようとしている。
そこまでして話したいなんて、何てえげつない奴なんだ。
それだけじゃなく、周りの奴等も声を上げて僕を応援している。
さっきの話の続きを聞きたくてしょうがないのだ。
コイツらから沸き上がった醜悪で強力なエネルギーが渦巻いて、
このテーブルを取り囲む輪にまとわりついていた。
その一種異様な盛り上がりと圧迫感に僕は負けた。
つまりゲームに勝った。
大歓声が上がって、嘆き声と下品な笑みがこぼれた。
考えが浅はかだったか。
隣りの奴にハイタッチをされながら僕は思った。

「じゃあその時の一部始終を詳しく聞かせてもらうよ〜」
今回一番最初にあがった奴が心底嬉しそうに、したり顔でそう言った。
「チクショー、まさか二回続けて負けるとは」
と下品な表情で晴れ晴れしく話し始める。
僕は何とか話から気を紛らすように、聞く振りをしながら、
テーブルの上のカードを集めて手元でシャッフルしたり、適当に弄ったりする事にした。
「それからフェラチオがさ…」と聞こえた途端、
激しい目眩と腹の中を掻き回されるような感覚に襲われた。
僕はカードを捨てるように手放し、トイレに駆け込んで思いっきりゲロを吐いた。
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by shimizumigiwa | 2011-01-30 07:04 | ラムネ

ラムネ 10

ラムネ前回

笑い声が聞こえて目を覚ますと、
部屋の奴等がテーブルに輪になってトランプをしていた。
僕が起きたのに気付いた奴が
「どうよ調子は?復活してたらやろうぜ」と赤ら顔で言ってきた。
どうやら酒も入っているらしい。
テーブルの上に缶ビールが数本置かれているのが見えた。
買い出しの際かその後か、いずれにせよこっそり買って来たのだろう。

トランプに参加するのは本当は面倒臭かった。
別にこの部屋の奴等が取り立てて嫌な訳じゃない。
体調ももうだいぶマシだった。
ただ昔からトランプやゲームに参加するのが単純に面倒臭いのだ。
僕が一人っ子である事が関係しているのかわからないけれど、
大体において子供の頃からずっと一人で遊ぶ事が多かった。
小学校の時のドッヂボールにしたって、参加しなければいけない場合は、
なるべく関わりたくないから真っ先に外野を選んだ。
外野になれなかった時は、わざと早く当たってすぐにコートの外に出るようにしていた。
家で一人ファミコンをする時も、野球ソフトのように
ゲームによっては対戦相手が欲しく思う時もたまにあったけど、
その欲求も通り過ぎてしまえば充分一人で楽しめた。
だからトランプやら人生ゲームやら何にしても、
とにかく複数人でやるモノに参加するのが何となく億劫なのだ。
そして何より、僕は酒が大っ嫌いだ。
だけど、さっきも買い出しを断ったし、
さすがに今回も断ると何となく角が立ちそうだったし、
その後の雰囲気や気分的な事を考えると、そっちの方が面倒くさそうだったので、
参加する事にして今に至る。

隣りの奴がビールを勧めて来たが、体調が万全ではないから
また気持ち悪くなると迷惑かけるから今日はやめておくと言って、やんわりと断った。

トランプの内容は単純な大貧民であるのだけど、罰ゲームが課されているらしい。
一番最初にあがった奴の質問に、
負けた奴が必ず答えなければならないというものだ。
さっき負けた奴は好きな女子を答えさせられて、
その前に負けた奴はクラスで嫌いな奴を答えさせられたようだ。
くだらない。
体調の事で気遣いさせておいてこう言うのもなんだけど、
この手のモノは本当にくだらないと思う。
罰ゲームの内容も質問も低レベルで呆れるし、
そもそも別に他人が誰を好こうが嫌おうが知ったこっちゃないし興味もない。
僕自身は致命的な危害が及ばない範囲であればどう思われても構わないので、
どんな質問が来ても困らないし、
内容によっては適当に当たり障りのない事をでっち上げれば良い。
逆に聞きたい事もないので、質問に困るという部分だけが
プレッシャーと言えばプレッシャーだけど、まぁカードが強い場合でも
わざと一番に上がる事を回避しよう。
それで事なきを得られるはずだ。
ただ一点の懸念を除けば。
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by shimizumigiwa | 2011-01-29 01:36 | ラムネ

ラムネ 9

ラムネ前回

目的地のホテルに到着して、各班の部屋に荷物を置いてからまもなく、
ホテルの宴会場でテーブルマナー研修の為の夕食が始まるという事だった。
だけど僕は、バスでの酔いがまだ後を引いていたので、
参加せずにそのまま自分の班の部屋で休む事にした。
食欲もなかったけど、端からフランス料理にもまったく興味はなかったし、
気分が悪いのを我慢してまで、かったるそうなマナー研修に
参加する気になんてなれなかった。

同じ部屋の奴等が研修に出掛けて行ってから、制服を脱いで部屋着に着替え、
ベッドに横になった。
眠りたかったけど、なかなか寝付けなかった。
バカどもがバスのカラオケで歌っていた歌が、
頭の中でいつまでもグルグルと流れていた。
横になれた事で大分マシではあったけれど、
部屋の奴等が研修から戻って来るまでずっと、
現実と夢のラインすれすれの所にいる状態が続いていて、
結局そのラインを超す事はなかった。
元々環境が変わるとうまく眠れないのだ。

部屋の奴等は、戻って来てから着替えてまたすぐに、お土産と夜更かしの為の
おやつを買いに売店に行くと言い、復活してたら一緒に行くか?と聞いてくれた。
でも恐らく、他の部屋の奴等も大体考える事は一緒で、
売店やその周辺には大人数が集まり、旅行に来ている高揚感と
堅苦しい研修を終えた解放感が相俟った妙なテンションで、
商品を選びながら大袈裟にはしゃいだり、フザケ合ったり、
ひいては「夜中にそっちの部屋に行くからさ」といったような話で
盛り上がったりという、ワイワイガヤガヤの状態になるのだろう。
今またそういう場に居合わせると、嫌な気分と頭痛がぶり返しそうだし、
何より億劫で、悪いと思いながらもまだ少し休みたいと言って断った。
そうして再び部屋の奴等が出掛けて行ってから、ようやく僕は少し眠った。
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by shimizumigiwa | 2011-01-07 09:14 | ラムネ

ラムネ 8

ラムネ前回

僕は前の方の席に座っているから顔は見れないけれど、声からして恐らく、
いつも教室でおチャラ気ているヤンキー気取りの男が、最近のヒット曲を歌い終わると、
そいつの近くの席にいる女子達が「うま~い!」「いい感じ~!」などと
甘ったるい歓声を上げていた。
「この歌良い歌だよね~」
「だよね~、俺もこの歌好きなんだよ。でも歌ったのは今日が初めてだな」
近くの女子に話しかけられてヤンキー気取りはそう答えた。
嘘つけよ。
どうせ女子にウケる為に女子にウケそうな曲を聴いて、
いつか披露する時の為に自分の部屋で散々歌って練習していたんだろう?
それで今が待ちに待った「いつか披露する時」だったんだろう?
そういやお前いつもいきがっているくせに、稲田がプリント燃やした時に
ビビって椅子から腰浮かせてなかったっけ?
ただでさえ酔い気味なのに、そいつが部屋で歌詞カードを片手に
必死で練習している姿を想像すると本気でゲロを吐きそうだった。

僕はカラオケそのものに行った事がない。
まぁ誘われる事もないのだけど、大体金を払ってまで人前で歌って、
その上こんな風に聴きたくもない上っ面な量産型の歌まで
言う程でもない歌唱力で聴かされて、
こんな風にいかにはしゃげるかがステータスみたいな感じで競い合って、
何が楽しいのかさっぱりわからない。
それが青春の一つの要素だとでも言うのだろうか?
だとしたらお前らの青春とやらは、作られた情報による流行や風潮に惑わされ、
支配されたものという事だな。

「そういやブルーハーツって最近解散したらしいぜ」
ヤンキー気取りの近くにいた別の男、声からして校内でもいつもつるんでいる
ヤンキー気取り2号が唐突にそう言った。
選曲リストで、ブルーハーツの欄を見ていたのだろう。
「マジかよ!?俺ブルーハーツ結構好きだったのにな~」
1号が反応する。
普段ヘビィメタルばかり聴いていて、最近の邦楽に詳しくなく興味もない僕でも
ブルーハーツというバンドの存在くらいは知っている。
そう言えば稲田の机を拭いた時、色んなバンドの名前と一緒に
ブルーハーツの名前も彫ってあったのを思い出した。
それにしても…。
「超悲しいよな。てことで解散記念に歌っちゃいますか」
そう言って2号がバスガイドさんに番号を指示した。
やっぱりな。
要するにその程度なんだろう?
「結構好き」なくせに解散を知らないんだろう?
「超悲しい」くせに「記念」なんだろう?
つまりカラオケで盛り上がれるレパートリーが欲しいが為に聴いていたんだろう?
上っ面ばかりでどの歌手の歌の真意も歌詞もお構いなしなんだろう?
というかそんなもの端から気にもとめていないんだろう?
こんな奴等の歌声なんかこれ以上聴いていたら酔いが悪化するどころではない。
僕は鞄からウォークマンをそっと取り出した。
こいつで全てをシャットアウトしよう。
ウォークマンを持って来る事は禁止となっていたのだけど、担任もまさか
バスの中を歩き回って監視するはずもないし、音漏れさえ注意すればバレないだろう。
そう思ってしばらく聴いていたら、ヘビィメタルサウンドが直接ガンガン響いて
頭が痛くなってしまった。
多少酔っているところにLOUDNESSのCRAZY DOCTORは文字通りヘビィだった。

「銀紙の星が揺れてら~」
ウォークマンを断念して窓の外をぼーっと見ているところに奴等の歌が聴こえて来た。
銀紙の星…確か中也の詩にもこんな感じの表現てなかったっけ?
ガンガンする頭の中でぼんやりと思ったが、それ以上思考を働かせる気力はなかった。

頭が痛い。
気持ち悪い。
何だか本格的に酔ったみたいだ。

この行事はのっけからホントに最悪な気分になった。


CRAZY DOCTOR
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by shimizumigiwa | 2010-12-30 07:48 | ラムネ

ラムネ 7

ラムネ前回

案の定、稲田はテーブルマナーに来なかった。
というよりあのプリント燃やし事件の日以来ずっと学校に来ていない。
嫌味を言われた事がショックだったという訳ではなくて、
多分初めからテーブルマナー自体行く気がなかったのだろう。
そう言えば去年の修学旅行は来ていたっけ?
クラスが違ったとはいえ、あれだけ存在感のある奴の印象がないという事は、
やはり来ていなかったのだろうか。
配られたトランプのカードを手に取りながら、そんな事をぼんやりと思っていた。

それにしてもテーブルマナー一日目はこちらも案の定最悪だった。
行きの貸し切りバスでは、後ろの方に座っている浮かれた奴等が、
カラオケをやりたいと言い出して、お得意の必要以上な馬鹿騒ぎをしていた。
これからマナーを学びに行く人間を乗せたバスの車内が
この有様だと言うのだから救いようがない。

そんな中、僕は持って来ていた文庫本「中原中也詩集 大岡昇平編」を読んでいた。
ちなみに中原中也の詩集を読むのは二冊目。

中原中也を知った切っ掛けは、一年位前に「眠兎」という漫画を読んだら
中也の詩が引用されていて、それにグッと来るものがあり、
さっそく文庫本の「河上徹太郎編」を買って読んだ。
何と言うか、静まり返った人気のない哀しげな風景というか、
錆び付いた鉄屑の匂いがするような空虚な世界観にシビレまくった。
普段自分が抱えている行き場のないモヤモヤが全部詰まっているような気がしたし、
何よりこの憤りも含みのウジウジさ加減に共感して、自分を投影させていた。
特に「骨」と「思ひ出」という詩が好きだ。
ただ、自分とは決定的に異なるところがある。
それは、中也は美男子だというところだ。
ビジュアルが良ければ、そのウジウジさ加減や気性が荒く酒癖の悪いところも、
その人の印象を形成する魅力や個性の一部として成立するのだろうけれど、
僕みたいなブサイクな奴がそこまでさらけ出すと、
ただの陰気臭くて面倒臭い嫌な奴になってしまう。
結局そんなもんだよ。

まぁそれはともかく、テーブルマナーに行くにあたって、
どうせ退屈だろうから暇つぶしの為に何か本でも持って行こうかなと、
本屋を物色している時にこの「大岡昇平編」を見掛けて、
「河上徹太郎編」には載っていない温泉集であったり、
未刊詩篇に読んだ事のない詩が沢山載っていたので買う事にした。
それと、カバーにあの有名な肖像写真が載っていないところが何となく良いと思った。
初期短歌も載っていて、これがまたシビれるものだった。
「人みなを〜」の歌なんて最高じゃないかと思っていたところに、
奴等が披露する馬鹿騒ぎと悪趣味な歌だ。
更にはバスの揺れも相俟って何だかちょっと酔ってまった。
もう本を読むのはあきらめよう。
第一、妙なBGMのもとで読みたくはないし、
せっかくのイメージがメチャクチャにされてしまう。

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by shimizumigiwa | 2010-12-13 02:00 | ラムネ

ラムネ 6

ラムネ前回

理由はどうあれ、担任が嫌味な言い方をして
稲田を刺激したのはハッキリ言ってバカだと思う。
だけどその後の判断は、まぁ担任は呆気にとられて動転してしまい、
適切な判断と迅速な行動ができなかっただけだとは思うけど、
結果的にはあれで良かったのだとも思う。
もし無理矢理制しようとしたり、それこそ消火器やバケツに汲んで来た水をかけたり、
他の教師を呼びに行くだとかしていたら、もっと大事になっていたに違いない。
あとはこの出来事を、他の教師にイチイチ報告しなければいいなと
一瞬不安に思ったけれど、どうもこの担任はプライドが高いみたいだから
それはまぁ大丈夫だろう。
うまく対処できなかった事を同僚に知られたり、
そう思われる事も自分が許せないだろうし、
報告をする事によって稲田に何らかの処分が下されたとしたら、
恥をかかされた報復だと生徒に思われる事も許せないはずだ。

面倒な事を増やしたり、いざこざを起こしたり、
それこそ自尊心を損ないたくなければ教師の余計な正義感や熱血なんて必要ないんだよ。
だいたい生徒は端から教師にそんなものは、
ましてや理解や愛情だって求めていないんだから。
特に「生徒の身になって」とか、「生徒の目線になって」とか言う教師は
大っ嫌いで信用できない。
第一、「生徒の目線」と言う時点で既に視点が上にあるという事を
言っているようなものじゃないか。
教師と生徒は解り合えるだとか、心を通わせられるだとか、
そんなものは幻想に過ぎないという事は高三にもなれば誰だって解る。
それこそaとbのまったく別々の記号。
始めからそう認識していればお互いに余計な関わり合いをする事もなく、
決して交わらずに、平行線のままでことなきを得るじゃないか。

「ウケたよな〜。」
早速、担任が消火器を持って来た姿をネタにして笑い合っている奴等の声が聞こえた。
先生早速バカにされていますよ。
やっぱり平行線で良かったんじゃないですか?
それに本来ならさっきの時間で済ませたかった行事の説明も途中になって、
次のホームルームまで持ち越しになっちゃったじゃないですか。
平行線で充分なんですよ。
平行線、正にイコールじゃないですか。
だから余計な干渉はして来ないでください。
こっちもしませんので。
稲田の机を雑巾で拭きながらそんな事を思っていた。

教室に、紙の焦げた臭いとジュースの甘い香りが交ざった気持ち悪い臭いが、
まだほんのり漂っている。
誰かが窓を開ける音が聞こえた。
ほらみろ、俺以外の誰かだってイコールを求めている。
自分達の不快感だけじゃなく、次の授業の教師に臭いで何か勘づかれたら面倒だもんな。

結局この日、稲田は教室に戻って来なかった。
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by shimizumigiwa | 2010-09-03 06:00 | ラムネ

ラムネ 5

ラムネ前回

ホームルームでは、情操教育の一環だか何だか知らないけど、
来月にテーブルマナーを学びに行くという一泊二日の研修旅行があるみたいで、
その内容が記されたプリントが配られ、
担任である三十代半ばくらいの女の先生が説明していた。

その名の通り、伊豆のホテルに行き、そこのレストランで
恐らく名ばかりのフランス料理のコースを食べながらマナーを学び、
その日はそこのホテルで一泊。
翌日はレジャー施設のような大型の公園へ行って半日それぞれの班行動、
その後帰路につくという行程らしい。

あーなんてくだらなくて面倒臭そうな行事なんだ。
大体僕は昔から遠足とか修学旅行というものが大っ嫌いなのだ。
レジャーにしろ観光にしろ、できるだけ自分のペースで行いたいタチなので、
とにかく団体行動、少なくとも班行動をしなければならないのが
鬱陶しくて苦痛でしょうがない。
退屈な授業をやり過ごしている方がまだマシだ。

担任が説明の途中に「一回しか説明しませんよ。集合時間に遅れた人や
忘れ物をした人は知りませんから。」と言った。
これは生徒全員に言っているように見せかけて、寝ている特定の生徒、
つまりいつものように机に突っ伏している稲田に向けられた嫌味である事が
明らかにわかる言い方だったので、僕は少しハラハラした。
それと同時に、この担任は稲田を受け持つのが初めてなので、
いまいち稲田に対する予備知識や実感がないからそんな言い方をしたのか、
他の教師達とは違い自分だけは屈しないという熱い正義感からなのか、
今までは大目に見ていたけれどその溜まっていたモノがつい零れてしまったのか、
それともただ単に、たまたま虫の居所が悪かっただけなのかわからないけれど、
何にしてもこの人めんどくさい教師だなぁと思った。

尚も続けられる行事の説明を何となく落ち着かない気持ちで聞いていたら、
僕の右隣りでカチッと音がして、その直後焦げ臭さが鼻をついた。
反射的に右隣りを見ると、稲田がライターでプリントに火を点けて燃やしていた。
一瞬呆気にとられ何が起こったのかわからず稲田の方を凝視してしまったが、
担任を見返してみると、稲田の唐突の行動に目を真ん丸にして、
つい今まで説明をしていたプリントを持ったまま硬直している。
それは教室全体も同じだった。
椅子から腰を少し浮かせた状態で固まっている奴もいた。
全ての時間が止まっている。
担任はようやく思考回路が繋がったのか、夢から覚めたようにハッと我に返り、
慌てて教室の外へ飛び出して行った。
そんな中、稲田は自分の机の上でメラメラと燃えているプリントを
まさに対岸の火事のように無表情で見ていたが、
しばらくして自分の鞄から紙パックのジュースを取り出し、
それを燃えているプリントの真上から静かに注ぎ、火を消した。
そしてそのまま黙って鞄を抱えて席を立ち、
何事もなかったように教室を出て行ってしまった。

一足遅れて、消火器を抱えた担任が慌ただしく戻って来たが、
稲田の席の状況を見て再び硬直した。
その直後、催眠術を破る合図のようにホームルーム終了のチャイムが鳴った。
術中にハマっていた担任は、自分が教室を出ていった後の状況を何となく察したようで、
最後の意地を絞り出すように「だ、誰か机の上を片付けておくように」とだけ言って、
バツが悪そうに再び教室を出て行った。
呪縛から解かれた教室もようやく時間が動きだし、
クラスメイト達も恐る恐るだけどざわつき始めた。

「誰か片付けておくように」の「誰か」とは、
「稲田の席の近くの人」を指すのであって、前後の席より隣りの席の方が
一連の状況をより把握しやすく、稲田の右隣りは壁、
つまり必然的に左隣りの席の僕が片付ける事になる。
でもこのまま放っておいて、次の授業の別の教師が、
その状況に何だかんだ反応する事を考えるとそっちの方が面倒だ。
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by shimizumigiwa | 2010-08-31 04:02 | ラムネ