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Looking for the Nostalgia

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カテゴリ:ラムネ( 14 )

ラムネ 4

ラムネ前回

稲田とは今回初めて同じクラスになった。
席は隣りだけど、休む事も遅刻する事も早退する事も度々だから、
まだあんまり話した事もない。
とは言え何しろ風貌から雰囲気から存在感があるので、
一年生の時から存在は知っていたし、いやでも気にさせられるというか、
興味をそそられる奴だった。

それだけに、稲田には色々な噂が囁かれていた。
中学生の時にチーマーと争った際に、相手の片耳をナイフで削ぎ落として
少年院に入ったらしいとか、今は暴走族に所属しているらしいだとか、
学校の最寄り駅の一つ手前の駅付近まで、裏ルートで手に入れた
自分の車を運転して来て、路駐をしておいて通学しているらしいとか、
町田駅付近でパー券を売りさばいているのを見たとか、
新横浜で外国人から薬を買っているのを見たとか、
家庭の事情で既に一人暮らしをしているらしいとか、
色んな高校に沢山彼女がいるだとか。
どれがどこまで本当なのかわからないし、
どうせ殆どがくだらない噂話に過ぎないと思うのだけど。
実は全身タトゥーだらけだというものまであったが、これは稲田が
夏でも夏服を着用せず、長袖のシャツを着ている事から発生した安直なものであろう。

そんな噂話ではなく、僕が観察していてわかった事は、稲田が身に着けている
缶バッジにはとりわけTHE MAD CAPSULE MARKET'Sのモノが多く、
稲田はTHE MAD CAPSULE MARKET'Sが特に好きなんだろうなという事。

ちなみに僕は普段MOTLEY CRUEやSKID ROWや
LOUDNESSといったヘヴィメタルを聴いているので、
稲田が身に着けているバッジにあるようなバンドは、名前は知っていても
あまり聴いた事がなかったり、そういう音楽を聴いている奴等の大半は、
本当に曲が好きで聴いているというよりも、
コレを聴いているとカッコイイだとか、オシャレだとか、
気取る為の手段として聴いているように思えてならないので、
いまいち受け入れられないでいる。

その反面、冴えない僕が持っていないものを全て持ち合わせている稲田に、
何一つ共通点を見出だせず、どこか寂しさのような感覚も抱いているのだけれど、
とはいえそういう音楽(オシャレ感覚で聴いている奴等)に対しての
嫌悪感を乗り越えてまでジックリと聴くに至る大きなキッカケがないというか、
まぁ社交性もない僕にはこれからもそんなキッカケはないと思うし、
必要かと言えば別に必要もないのだけど。

それから、もう一つだけ発見した事があった。
数日前、授業中机に突っ伏して寝ている稲田をなんとなしにみていたのだけど、
よく見ると脱色された髪の毛の色がまばらだ。
パッと見はわからないけれど、やたらに明るい色の毛が無数にある。
始めは、脱色を何度も繰り返したり、液の乗り具合とかでムラができたりする事も
あるのかなと思ったのだけど、しばらく見ていてそうではない事に気付いた。
ただの自己顕示欲だけではなく、それを目立たなくさせる為もあって
金髪にしているのか、そもそもどうしてそうなのかもわからないのだけれど。

稲田の髪の毛は、ほぼ半分が白髪なのだ。
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by shimizumigiwa | 2010-08-05 09:21 | ラムネ

ラムネ3

ラムネ前回

朝のホームルームが始まるまで、教室の自分の机に顎肘をついて、
近くでクラスメイト達が先日起きた横浜駅異臭騒ぎの話をしているのを
何となしに聞いていた。
先月に都内の地下鉄で毒物による大きな事件が起きたばかりだから、
ニュースでも関連性があるのではないかと大きく取り上げられていた。

「ゼッテーまたあの団体の仕業だよな。
このタイミングでやるなんてバレバレでバカだよな」
「いやでもそれが難関大学卒とかの賢い奴等の独自な考え方なんじゃねえの?」
「凡人の俺達とは発想が違うって事か?」
などと言って笑い合っている。
何をつまらない想像力を働かせているのだ。
こういう場合、想像力というのは「もしその現場に自分がいたとしたら、
友達や家族がいたとしたらどうだっただろう?」と思う事に、
置き換えて痛みを知る為に働かせるものなんじゃないのか?
どうせ自分は時事問題に関心があるんだという事を主張して
大人振りたいだけなんだろう。だから浅はかで上っ面な事しか語れないのだ。
大体「賢い」ってお前ら正気かよ。

そんな雑談の輪の中には進学クラスの奴も混じっていた。
こんな想像力も乏しく、物事の上辺しか見れないような奴が
成績優秀で進学クラスにいるのかと、心底うんざりしていたその矢先、
まさに周りの匂いが急に変わるのがわかった。
隣の席の稲田が登校して来たのだ。
いつもの事だけど、よくもまぁ平然としていられるもんだよと関心する。
要はあからさまに煙草の匂いをまとっているのだ。

稲田の机に腰を掛けていた進学クラスの奴は、気まずそうに机から離れて、
チラッと稲田を横目で確認してからそそくさと自分の教室に帰って行った。
一緒に話していたクラスメイトもよそよそしくその場から散って行った。
稲田はそんな彼らの素振りも別段気にするでもなく、自分の席に座った。

稲田は頭の先から爪先まで、いかにも悪そうな香りをプンプン漂わせている奴だった。
ボサボサの髪の毛は金に近い色まで染められていて、
チラッと見える耳には幾つものピアス。
ブレザーや学校指定のバッグにはHELMETやNIRVANAや
THE MAD CAPSULE MARKET'Sといったバンドのロゴや写真が
プリントされた沢山の缶バッジ。
緩く結ばれたネクタイ。
第二ボタンまで開けられたシャツの裾は当然のようにズボンの外に出されており、
ズボンは腰骨のうんと下で履かれ、ウォレットチェーンが付けられていた。
もちろん上履きの踵部分はぺったんこである。

だけど、いわゆる皆に見える所で悪い事をしてちょっと目立ちたい、
でも実際退学になったらどうしようとか、辞める勇気もはなから無く、
なんやかんや学校にしがみついているような半端なヤンキー達とは違った。
たぶん「本当にどうでもいい」のだ。
だから処分も一年生の時に一度だけ。
教師も叩いても何も響かないような奴と解れば相手にしない。
悪さを見つかり、あからさまにうろたえ、
ヘコむような奴こそ弄り甲斐があり、虐めたがる。
教師の習性というのはそういうものだ。
第一叩いても響かない奴をイチイチ相手にしていたら、
教師の方も身が保たないのだろう。
もはや稲田を相手にする教師はいなかった。
それに、稲田から滲み出る退廃さは個人にとどまるものであったので、
放っておけば必要以上に騒いだり暴れたりするような奴ではなかった。

僕は稲田の事を、何だか綺麗なヤツだなと思っていた。
綺麗と言っても身だしなみであったり、
美人な女の人を見て思うそれとはちょっと違う意味で
(身だしなみは先の通りヒドイものだ。)、何と言うか、
混じり気の無い真っ黒な墨が綺麗に見えるのと同じような印象だった。
混合物の含まれた中途半端な不良達とは違う。
稲田は紛れもなく純度100%の不良少年だ。
だから綺麗に見えるのかもしれない。
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by shimizumigiwa | 2010-07-13 04:54 | ラムネ

ラムネ2

ラムネ前回

高校最後の学年が始まると、運動部の同級生達は、
残り少ない引退までの期間を燃え尽そうと気合い充分で、
ヤンキー達は「俺あと一回停学くらったら卒業できねーかも」などと言い合う、
お得意の不良度アピール合戦をわざわざ教室の真ん中で繰り広げたり、
進学クラスのやつらは既に受験モードで、単語帳片手にピリピリしつつも、
いざ話しかけられれば勉強していない素振りを装う事に必死になっているようだった。

僕はといえば、…何も考えていない。
というより将来の目標や、やりたい事なんて特にないし、
考えてみれば今まで志しなんてものを持った事がなかった。

まず大学にはまったく興味が持てない。

神奈川の県境に位置する米軍の補給地と目と鼻の先にあるこの高校も、
一応は大学の付属高校ではあるのだけれど、
じゃあその大学へ進学を希望した全員がそのまますんなり入れるのかというと
そういう訳ではなく、まず理系の大学なので、そちらの方向を選択した者に限られる。
さらに推薦枠は成績上位40人くらいまでとなっているらしいので、
僕にはまったく縁のないものであった。

それはさておき、大学の敷地内に高校があるわけだから、
大学生の姿は普段からよく見掛けられた。
また高校の最寄り駅からは、少し離れた場所にある大学行きのバスも出ているので、
学校帰りは駅付近で、よく大学生が集団でつるんで馬鹿騒ぎをしているのを見掛ける。
それらを見る限り大学生には、何かを学びに行っているというよりも、
飲み会だとかカラオケだとか合コンばかりをして、
遊んでいるようなイメージしか持てなかった。
サークルにしたって活動そのものよりも、その後の打ち上げがメインなのだろう。
そんな事をする為だけに行くのなんてバカバカしい。
何で皆大学に行きたがるのかさっぱりわからなかった。
ハッキリ言って遊ぶ時間が欲しいだけなんじゃないか?
だったら大学なんかに行かず、適当にバイトでもしながら遊んでいればいいじゃないか。

一番意味がわからないのは、とりあえず大学に行って、
その間に「自分を見つけたい」などと言っている奴等だ。
何が「自分」だよ、と思う。
「自分」程曖昧で信用できないものなんて無いのだし、
大体「自分」なんて死ぬまで見つかるわけないじゃないか。

それに小学校から11年間してきて一度も楽しいと思った事がない勉強を、
これ以上したいとは思わないし、何より、のめり込めるものが何もないが為に、
虚無感と閉塞感しか感じられない学生生活をこれ以上送りたいとは思えなかった。
だから高校だってさっさと卒業してしまいたい。

とは言いつつも、就職するにしても何の仕事をすればいいのか見当もつかないし、
高校を卒業してすぐ働くのも何だなぁと思っていた。
まぁ卒業までの間にどうするか決めれば良いやくらいの事しか思っていなかった。

そうだよ。
僕はのめり込めるものなんて何もないのだ。
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by shimizumigiwa | 2010-06-12 05:17 | ラムネ

ラムネ 1

この町は取り立てて特徴というものがない。
新しいお店やデパートがあるような町ではないし、
古き良き情緒ある街並という感じでもない。
唯一特徴があるとすれば、桜並木の商店街の先に見える、
町を分断し、隣の駅まで続く高い金網と有刺鉄線。
米軍の保給地。
それもいつもと変わらない風景。

きっと同級生の皆は、彼女や彼氏とデートしたり、友達と街へ繰り出したり、
何処かへ遊びに行ったりしているのだろう。
部活の練習に行っている奴もいるだろうし、
賢い奴等は塾へ行ったり勉強しているのかも知れない。
それをこの後に及んで何で僕は、こんな冴えない地元の商店街のお祭りを、
母親と二人で歩かなきゃならないんだ。
そう思うとすごく惨めで、同時に焦燥感と疎外感を覚えた。

僕は地元に特別な想い入れがない。
だから地元のおっさんとおばちゃんだけがやたらと張り切っているような、
毎年商店街の桜並木が満開になる頃に行われるお祭りも、
やるせない気持ちになるだけでまったく興味がなかった。
だけど母親がどうしても一緒に行きたがったのと、
他に何の予定もやる事もなかったので仕方なく了承したのだ。

想い入れがないから基地に関する政治的な背景とかよく知らないし、興味もない。
基地のスペースで町は完全に分断されているけど、
取り立てて町の向こう側へ行く用事もないからその点煩わしく思うことはない。
ただ、この桜並木の商店街の通りは、元々厚木基地までの戦車の通り道だったという事と、
その先にある国道16号が、いざという時滑走路として使えるようになっているというのは、
聞いたことがあるような気がする。

催し物の太鼓の演奏と、お花見をしている人達の笑い声が聞こえていた。
出店の料理のソースが焦げるような臭いも漂っていた。
手書きでラムネと書いてある看板が目にとまって急に飲みたくなり、1本買った。

母親はポケットから使い捨てカメラを取り出して、
そこの桜の木の下に立つから写真を撮って欲しいと言ってきた。
何だか恥ずかしくて、ますます惨めな気分だと思いながらカメラを受け取り、
ファインダーからポーズを決め込む母親を覗く。
「桜もちゃんと入ってる?」
「あー入ってるよ」
そう言ってシャッターを押した。
母親にカメラを返すと、「あんたも撮ってあげるよ」と言われたが、何となく照れくさくて、
「もういいよ、やめてくれよ」と言って、母親に背を向けそそくさと歩き出した。

明後日から高校最後の学年が始まる。
来年の今頃は卒業をしていて、何かが終りを訃げて何かが始まるだとか、
そういうのは実感もないし、まったく想像すらもつかなかった。

今の自分には、鬱陶しいとしか感じられない春風の吹く桜のトンネルの下、
元戦車の通り道でラムネを一口飲み、溜息の様に一息吐く。
瓶の中のビー玉がカランと音をたてた。
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by shimizumigiwa | 2009-11-04 07:12 | ラムネ