人気ブログランキング |
ブログトップ

Looking for the Nostalgia

miggy.exblog.jp

2010年 05月 14日 ( 1 )

「君は素知らぬ顔で」読了

飛鳥井千砂さんの小説「君は素知らぬ顔で」読了しました。
6編からの連作短編小説ですが、
短編Aの中のA'という要素が短編Bにも含まれていたり、
短編Cの主人公Dが短編Eに脇役として出ていたりという形式で、
一つ一つ独立した短編としても成立しながらも、
全てにつながりのある構成となっています。
そして全ての編に、ある種のメタファーとしての人物が登場しています。

実はこのようなスタイルは、飛鳥井さんの一つの持ち味だという事を知っています。
以前、文芸誌「小説すばる」で、飛鳥井さんの連載小説の挿絵を
担当させていただいた時があったのですが、
その時の作品もこのような形式だったからです。

読み始めてから随分と時間がかかってしまったのですが、
「桜前線」という編を読んだ辺りから頭に血が上ってしまって、
これはとても継続して読めないという状況にまで内容に引き込まれ、
しばらく寝かせておいた為です。

中でも僕が一番印象深かったのは「今日の占い」という編です。
あまり書くとネタバレになってしまうので詳しくは書けませんが、
おそらく読んだ人のほとんどが、
悪役というかヒドいヤツという印象を抱くような人物が出てきます。
でも僕は果たしてこの人だけが全ての原因だろうかと思ってしまいました。
一つは、この人はある種の人格障害である可能性が高いと思ったからです。
だとしたら責める対象はこの人ではなく、病気に対して向けられるものだと思いました。
とはいえこの手の疾患は、本人はおろか身近な人でさえ気付きにくいもので、
かといってこの人の身近にいた人がくだした結論が間違ったものかというと、
決して間違っていないと思うし、むしろ正しかったとも思うし、
だからこそ余計にやりきれない気持ちになりました。
じゃあ別にそういう疾患ではなく、ただ単に気分屋なだけだとしたら、
やっぱりこの人は救いようのない最悪なヤツかというと、そうとも思えないんですよ。
全ての人に対してこういう行動をしてしまうヤツなのかと思うと、
それは違う気がするのです。
お互いの波長がそうさせてしまったのではと思えてならないのです。
だからといって許される事ではないですが、同じシチュエーションでも、
ある人では許せなかった事が、別の人では許せるといった事があるように、
お互いのあまりの波長の合わなさに、それぞれの人格や行動なんかを
狂わせてしまう事があるのだと思います。
とにかくこの編は、色々な意味合いでやりきれない気持ちでいっぱいになりました。

じゃあ「桜前線」も同じかと言ったら、これはもう全然違いますからね。
ネタバレになってしまうので書けませんが、ホントに血圧振り切れるかと思いました。

今回は特に男の人の感想を聞いてみたいと思いました。
この本を全編通して冷静に読める男がいたとしたら、ちょっと信じられません。
「ある術」を男は持ち合わせていないからです。
とにかくそれほどの力を持った作品です。

飛鳥井さんはこの他に4冊本を出されていますが、
この本は先に書いたような内容あり、清涼感あり、
靴が脱げるほどの泥のような内容ありといった、
飛鳥井さんのさまざまな魅力や側面が凝縮されていて、
もっとも飛鳥井さんらしい作品だと僕は思います。

もしこれから飛鳥井さんの本を読んでみようと思っている人がいたとしたら、
最初に読むならこの本が一番オススメかもしれません。

そして、実は数学的な作風の作家さんなのではないかと思いました。
最近数学的なものは、希望を見いだせたり、
実はとてもロマンチックなものでもあるような気がしてなりません。
by shimizumigiwa | 2010-05-14 05:35 | Diary